「先輩から無視される」「自分だけ仕事を教えてもらえない」「みんなの前で強く叱られ続ける」。保育士の職場でのいじめは、がまんするか辞めるかの二択ではありません。このページでは、いじめが法律でどう扱われるか、どこに相談できるか、辞める場合に使える制度は何かを、国の資料で確かめた範囲でまとめます。
相手や働き方ごとの相談の道すじと、記録の書き方は、保育士の人間関係がつらいときの相談先にくわしく書いています。この記事は、法律と制度の扱いにしぼります。
保育士のいじめは、法律ではどう扱われる?
保育士の職場でのいじめは、法律では「職場におけるパワーハラスメント」に当たるかどうかで扱いが決まります。「いじめ」という言葉は、この法律の条文にはありません。
厚生労働省の指針は、職場のパワーハラスメントを、次の3つをすべて満たすものと定めています。
- 優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
- 労働者の就業環境が害されること
「優越的な関係」は、上司と部下の関係だけではありません。指針は、次の場合も含むとしています。
- 同僚や部下による言動で、その人が業務上必要な知識や豊富な経験を持っていて、その人の協力がなければ業務を円滑に進めることが難しい場合
- 同僚や部下からの集団による行為で、抵抗や拒絶が難しい場合
つまり、園長や主任からの言動だけでなく、先輩や同僚からの無視や仲間外しも、対象になりえます。一方で、指針は「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」は、パワーハラスメントに当たらないとしています。
園(事業主)の義務は、法律で決まっています。
- 相談の体制: 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整えるなど、雇用管理上の措置をとらなければなりません(労働施策総合推進法第31条第1項)。
- 不利益な扱いの禁止: 相談したことや、相談への対応に協力して事実を話したことを理由に、解雇などの不利益な扱いをしてはいけません(同条第2項)。
- 小さな園も対象: この義務は、2022年4月1日から中小企業の事業主にも広がっています。
条文の番号は、2026年10月1日の法改正で「第30条の2」から「第31条」に変わりました。古い資料には、前の番号で書かれているものがあります。
出典:労働施策総合推進法第31条(e-Gov法令検索、2026年10月1日施行)。厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号、2026年10月1日適用)の2(1)・2(4)。中小企業への義務化は、厚生労働省のリーフレット「2022年(令和4年)4月1日より、『パワーハラスメント防止措置』が中小企業の事業主にも義務化されます!」。取得日:2026年10月10日。
保育士のいじめは、どんな行為が当てはまる?
保育士のいじめとして語られる行為の多くは、厚生労働省の指針が示す6つの型のどれかに近いものです。指針は、型ごとに「当たると考えられる例」と「当たらないと考えられる例」を挙げています。
| 表1 型 | 当たると考えられる例(指針) | 当たらないと考えられる例(指針) |
|---|---|---|
| 身体的な攻撃(暴行・傷害) | 殴打、足蹴りを行うこと | 誤ってぶつかること |
| 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言) | 人格を否定するような言動を行うこと。他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと | 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること |
| 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視) | 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること | 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること |
| 過大な要求 | 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること | 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること |
| 過小な要求 | 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと | 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること |
| 個の侵害 | 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること | 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと |
出典:厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号、2026年10月1日適用)の2(7)。例は指針の文のまま、各型から1〜2つを選んで載せました。取得日:2026年10月10日。
表1を読むときの注意が2つあります。
- 例は、すべてではありません。 指針は、表の例は限定して並べたものではなく、個別の事案では、言動の目的、経緯、頻度、継続性、相手との関係などを合わせて判断するとしています。
- 保育の現場の例ではありません。 表の例は、どの職場にも当てはまる一般の例です。保育の現場でのできごとが、どの型に当たるかは、この記事では判定しません。
当たるかどうかがはっきりしなくても、相談はできます。指針は、園の相談窓口に、パワーハラスメントに当たるかどうか微妙な場合も、広く相談に対応することを求めています。
保育士のいじめの相談は、どれくらいある?
保育士だけのいじめの件数を示す国の統計は、見つかりませんでした。職場全体のいじめ・嫌がらせの相談と、保育士の退職理由の調査で、分かる範囲を並べます。
| 表2 数字 | 内容 | 対象と時点 |
|---|---|---|
| 55,614件 | 総合労働相談コーナーなどに寄せられた、民事上の個別労働紛争の相談のうち「いじめ・嫌がらせ」の件数 | 全国・全産業。2025年度 |
| 222件 | 精神障害の労災で、支給が決まった件数のうち、できごとが「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」だったもの | 全国・全産業。2025年度 |
| 62件 | 同じく、できごとが「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」だったもの | 全国・全産業。2025年度 |
| 19.8% | 保育士として働いたあとに離職した人が、過去の園を退職した理由に「職場内の人間関係・ハラスメント」を選んだ割合(複数回答) | 全国の調査。n=1,251。2025年12月〜2026年1月 |
| 38.1% | いま保育士として働いている人が、以前の職場を辞めた理由に「職場の人間関係」を選んだ割合(複数回答) | 東京都の保育士登録者の調査。n=4,110。2022年7〜8月 |
出典:厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(2026年7月7日公表)、厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」別添資料2の表2-8(2026年7月15日公表)、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「保育士等の意識及び業務負担軽減に関する調査研究 報告書」図表4-27(こども家庭庁の補助事業、2026年4月23日公開)、東京都福祉局「令和4年度東京都保育士実態調査結果(報告書)」。取得日:2026年10月10日(東京都の調査は2026年10月9日)。
数字の読み方には、注意が必要です。
- 55,614件に、パワーハラスメントの相談は入っていません。 2022年4月から、法律上のパワーハラスメントに当たる相談は、別の区分で数えられています。この件数は、それ以外の「いじめ・嫌がらせ」の相談の数です。相談の件数で、人数ではありません。
- 労災の件数は、保育士だけの数ではありません。 全産業の合計です。業種別では、保育所を含む「社会保険・社会福祉・介護事業」が、精神障害の労災の請求706件、支給決定151件で最も多い業種でした。ただし、この区分には介護や障害福祉の仕事も入っていて、いじめが原因のものだけの数でもありません。
- 19.8%と38.1%は、いじめにあった人の割合ではありません。 どちらも、辞めた理由をたずねた調査です。「人間関係」には、いじめ以外の悩みも含まれます。2つの調査は、たずねた相手も時期も違うため、比べられません。
保育士のいじめは、どこに相談できる?
保育士のいじめの相談先は、園の中の窓口と、園の外の公的な窓口があります。園長や法人の役員が当事者のときや、園の中で相談しにくいときは、外の窓口から始められます。
| 表3 相談先 | 相談できること | 料金・受付 |
|---|---|---|
| 園・法人の相談窓口 | パワーハラスメントの相談。園には、窓口を決めて職員に知らせる義務がある。当たるか微妙な場合も相談できる | 園ごとに違う。就業規則や掲示で確かめる |
| 総合労働相談コーナー(労働局・労働基準監督署など全国378か所) | いじめ・嫌がらせ、パワハラなど、労働問題の全般。専門の相談員が、面談か電話で対応 | 無料。予約不要。土日・祝日・年末年始は閉庁 |
| 労働局長の助言・指導、紛争調整委員会のあっせん | 園(事業主)との間の争いについて、解決の方向を示してもらう、または第三者に間に入ってもらう | 無料。あっせんの手続きは非公開。申し込みは総合労働相談コーナーへ |
| みんなの人権110番(法務省)0570-003-110 | 差別、虐待、ハラスメントなど、人権の問題 | 平日 午前8時30分〜午後5時15分。秘密は守られる |
| こころの耳(厚生労働省)電話 0120-565-455 | 働く人の、心の不調や悩み。SNS とメールの相談もある | 電話は、平日17時〜22時、土日10時〜16時。フリーダイヤル |
| 法テラス・サポートダイヤル 0570-078374 | 法的なトラブルを解決するための、制度や窓口の案内 | 利用料0円(通話料は別)。平日9時〜21時、土曜9時〜17時 |
出典:厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」「個別労働紛争解決制度」、法務省「みんなの人権110番」、厚生労働省「こころの耳電話相談」、法テラス「サポートダイヤル」、園の窓口は厚生労働省の指針の4(2)。取得日:2026年10月10日。
それぞれの窓口には、できないこともあります。
- 助言・指導とあっせんは、園との間の争いが対象です。 職員どうしの争い(労働者と労働者の間の紛争)は対象になりません。同僚からのいじめの場合は、「園が対応してくれない」ことを、園との間の問題として相談する形になります。あっせんの案を受け入れるかどうかは、強制されません。
- こころの耳は、ハラスメントに当たるかどうかの判断はしません。 法テラスのサポートダイヤルも、個別の法律相談や法的な判断はしません(収入などの条件に合う人向けの、無料の法律相談は別にあります)。
- 公立の園で働く人は、窓口が違うことがあります。 公務員には、労働局のあっせんなどの手続きが当てはまらない部分があります。相談の道すじは、人間関係の記事の表で確かめてください。
相談の前に、できごとを書き残しておくと、伝えやすくなります。厚生労働省の「あかるい職場応援団」は、いつ、どこで、誰が、何を、何のために、どのようにしたのかを記録することを勧めています。園児や保護者の情報を持ち出さない書き方は、人間関係の記事の記録票にあります。
保育士のいじめで心や体の調子を崩したとき、労災の扱いは?
保育士がいじめを受けて心の病気になった場合、仕事が原因と認められれば、労災保険の対象になります。認めるかどうかは、労働基準監督署が、国の認定基準に沿って判断します。
国の認定基準には、心の負担のもとになる「できごと」の一覧があります。いじめに関係する項目は、次の2つです。
- 「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」
- 「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」
1つ目の「上司等」には、同僚や部下でも、その人の協力がないと仕事が進めにくい場合や、集団による行為で抵抗や拒絶が難しい場合が含まれると、認定基準に書かれています。
2025年度に、精神障害の労災で支給が決まったのは、全産業で1,082件でした。請求は4,958件です。請求すれば必ず認められるものではなく、できごとの内容や、ほかの原因の有無を合わせて判断されます。請求の手続きは、勤務先を受け持つ労働基準監督署で確かめられます。
出典:厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年9月1日 基発0901第2号)別表1、厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」(2026年7月15日公表)。取得日:2026年10月10日。
体や心の不調があるときは、医療機関に相談してください。この記事は、病気の判断や、治療の助言はしていません。
保育士がいじめで辞めるとき、雇用保険の扱いは?
保育士がいじめを理由に辞める場合、雇用保険では「特定受給資格者」に当たることがあります。当たると、自分の都合で辞めた場合とは、基本手当(失業したときの給付)を受ける条件が変わります。たとえば、基本手当を受けるのに必要な雇用保険の加入期間は、ふつうは離職前の2年間に通算12か月ですが、特定受給資格者などは、離職前の1年間に通算6か月です。
ハローワークの案内は、特定受給資格者の範囲のひとつに、次の人を挙げています。
「上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者」
当たるかどうかは、ハローワーク(公共職業安定所)が判断します。園が書いた離職理由だけで決まるものではありません。
- 辞める前に: 園がハローワークに出す離職証明書には、離職の理由が書かれます。離職の前に、本人が内容を確かめて氏名を書くことになっています。理由に異議があるときは、ハローワークに相談できます。ハローワークは、事実関係を調べたうえで、離職理由を判定します。
- 持っていくもの: できごとの記録、園や外の窓口に相談した記録など、離職の理由を確かめられる資料があると、説明しやすくなります。
- 決まりの細かい点: 給付の日数や、受け取るまでの期間は、年齢や働いた期間で変わります。自分の場合は、ハローワークで確かめてください。
辞めるかどうかを決める前の整理は保育士を辞めたいときの整理に、年度の途中で辞めるときの手続きは保育士の年度途中の退職にまとめています。次の園で人間関係を確かめる質問は、人間関係の記事の5問を使えます。
出典:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」の「解雇」等により離職した者の(10)、同「雇用保険の具体的な手続き」「基本手当について」。取得日:2026年10月10日。
保育士のいじめについて、この記事では分からないこと
- あなたの受けた言動が、パワーハラスメントに当たるかどうか: 個別の判断が必要で、この記事では判定しません。
- 保育の現場で、いじめがどれくらい起きているか: 保育士だけの件数や、経験した人の割合を示す国の統計は、探した範囲では見つかりませんでした。
- 相談したら解決するかどうか: 相談先ごとの解決の割合は、載せていません。
- 労災や雇用保険で、認められるかどうか: 労働基準監督署とハローワークが、資料をもとに判断します。
- 子どもどうしのいじめへの対応: この記事は、職員が受けるいじめを扱っています。
保育士のいじめでよくある質問
保育士の職場でのいじめは、法律で禁止されていますか?
いじめという言葉は法律にありませんが、職場での優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要な範囲を超えて働く環境を害するものは、パワーハラスメントとして扱われます。園(事業主)には、相談に応じる体制を整えるなどの措置をとる義務があります(労働施策総合推進法第31条)。
同僚からのいじめも、パワーハラスメントに当たりますか?
当たることがあります。厚生労働省の指針は、同僚や部下による言動でも、その人の協力がないと仕事を進めるのが難しい場合や、集団による行為で抵抗や拒絶が難しい場合は、優越的な関係を背景にした言動に含まれるとしています。当たるかどうかは、個別に判断されます。
園に相談したら、不利な扱いを受けませんか?
相談したことや、事実を話したことを理由に、解雇などの不利益な扱いをすることは、法律で禁じられています(労働施策総合推進法第31条第2項)。園の中で相談しにくいときは、労働局や労働基準監督署にある総合労働相談コーナーに、無料で相談できます。
いじめが原因で辞めると、雇用保険の扱いは変わりますか?
変わることがあります。ハローワークの案内では、上司や同僚などからの故意の排斥、著しい冷遇、嫌がらせを受けたことによって離職した人は、特定受給資格者の範囲に入っています。当たるかどうかは、ハローワークが資料をもとに判断します。
この記事は、いじめに当たるかどうかを判定しますか?
判定しません。当たるかどうかは、言動の目的や経緯、頻度などを合わせて、個別に判断されます。この記事は、法律と制度での扱いと、相談先を示します。体や心の不調があるときは、医療機関に相談してください。
更新履歴
2026年10月10日:労働施策総合推進法(2026年10月1日施行の条文)、厚生労働省のパワーハラスメントの指針(2026年10月1日適用)、令和7年度の個別労働紛争解決制度の施行状況と過労死等の労災補償状況、精神障害の労災認定基準、ハローワークの特定受給資格者の範囲、公的な相談窓口の案内を確認して公開。いじめに当たるかどうかの判定はせず、指針の6つの型の表、国の数字の表、相談先の表を掲載。
